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同じ東京なのに住んでいる世界が違うという事実

単身世帯4割の時代へ

「2040年には全世帯の39.3%、約4割が単身世帯(一人暮らし)になる」

 

この数字は、国立社会保障・人口問題研究所が5年ごとに発表している「日本の世帯数の将来推計」によるものだが、今年6月に発表された2020年国勢調査速報でも人口は約87万人も減っているのに、世帯数は約227万世帯も増えているという結果が出ている。これは単身世帯の増加を意味する。

家族が消滅するソロ社会の到来は「家族世帯」の減少とイコールであり、2040年には、かつて標準世帯と呼ばれた「夫婦と子」世帯は2割まで激減する。

 

単身世帯増、都会と地方での違い

単身世帯というと若い独身の一人暮らしを想像しがちだが、その中には有配偶の単身赴任者もいれば、離別・死別した結婚歴ありの一人暮らしもいる。東京などの大都市では若い単身者が多いが、地方になると逆に高齢者の単身者が多くなる。都会と地方とでは、単身世帯の増加といってもその中身は大きく違う。

 

東京の未婚の単身世帯

2015年の国勢調査のデータから未婚単身世帯を抜き出すと、東京都では男65万世帯、女48世帯と合わせて約114万世帯が該当する。これは、東京の単身世帯のうち57%、約6割が未婚の一人暮らしということになる。

 

港区女子と足立区男子は出会わない

20代以上の未婚の単身者だけを抽出して、各区ごとに男性と女性の比率を計算し、未婚男性が多い区、未婚女性が多い区をランキング

男性は、20~50代まで江戸川区が1位を独占。しかも、65歳以上の高齢者含めてベスト3すべてが江戸川区、足立区、葛飾区の3区で占められていた。

一方、女性は、20~30代で世田谷区が上位に、40代以上で港区が上位にという多少の変動はあるものの、目黒区、中央区、港区という3区が強い。

わかりやすく単純化していうと、未婚単身男性は家賃の安いエリアに住み、未婚単身女性は家賃の高いエリアに住むということがわかる。

なお、この比較はあくまで未婚単身男女の人数比の差で見たものである。絶対数で見ると、20~50代男性が多く住んでいるのは、上位から大田区、新宿区、世田谷区、杉並区の順であるし、女性も同様に、世田谷区、杉並区、大田区、新宿区の並びとなる。男女とも、順位の違いこそあれ、未婚の単身者が人数として多いのは大田区、世田谷区、新宿区、杉並区の4区となる。

 

40代以降の東京未婚男女の違い

もちろん、居住地は働いている場所にも影響される。特に、女性の場合は、帰宅時間との兼ね合いや治安の良さなども勘案しての選択だろう。だとしても、すべての年代においてここまで如実に男女の違いが出るのは非常に興味深い。しかも、20-30代まではそれほどでもない男女差が40代以降で急激に拡大する。

ところで、男の未婚の一人暮らしが家賃の低い所に住み、女の未婚の一人暮らしが家賃の高い所に集中する理由とはなんだろうか?

これこそが、実は未婚化や非婚化と密接に関係する要因のひとつでもある。45-54歳の未婚率である生涯未婚率で見てみると、低年収の男ほど未婚率が高く、逆に高年収の女ほど未婚率が高くなっていることがわかる。 

ちなみに、全体平均の男性の生涯未婚率は23.4%、女性は14.1%である。つまり、中年以降の未婚男性は低年収が多く、同じく中年以降の未婚女性は高年収が多いため、それが住めるエリアの違いに結びつくのかもしれない。

特に、40歳を過ぎて生涯非婚を決意した女性ほどマンションなど持ち家を購入する割合も高い。その一方で、40歳になっても非正規雇用など様々な事情で低収入の男性は、持ち家購入どころか貯金するゆとりすらない状況だ。彼らが、自分の収入の範囲内で住めるエリアを探せば、必然的に家賃の低い下町エリアしか選択肢がないのが現実なのである。

港区女子と足立区男子は出会う機会もないとは思うが、たとえ出会えたとしても互いの価値観の違いによってマッチングすることもないだろう。経済的価値観は結婚生活において重要だからだ。

東京23区の未婚一人暮らし男女それぞれの住む場所の違いから見えてくる。

東京なのに住む世界が違う

荒川、隅田川で隔てられているんですよね。東京は。港区女子と足立区男子は出会わないということです。

 

注目すべきは女性のほうです。全国総数の有業者人口構成比と比較すると、男女とも高年収者は一都三県に集中していますし、男性の場合、総数と未婚者で差分が変わるのは900万円以上と限定されています。しかし、女性の場合は、200万円以上のほぼ全区分で未婚者が上回り、特に、1000万~1500万円の高年収未婚女性に至っては8割が一都三県在住の女性で占められます。つまり、高年収の生涯未婚女性というのはそのほとんどが東京圏で働く女性だと結論付けても問題ないでしょう。一方で、生涯未婚率の高い多くの低年収男性は、都市に偏ることなく、全国的に分散し生息していると言えます。

くしくもこれは、江戸時代と酷似しています。当時、働き場を求めて、江戸には農村からたくさんの未婚男性が流入しました。そのため、江戸は一時女性の2倍も男性が多く住む「男余りの町」でした(「独身が5割超、江戸男子に学ぶシングルライフ」)。必然的に、性比のアンバランスにより有配偶率が減少、それとともに全体の出生率も低下し、結果都市の人口減少を起こしています。

周辺農村からの人口を引き付け、生涯未婚のまま死んでいく人たちが多かった状態を、歴史人口学者の速水融氏は「都市の蟻地獄」と名付けています。江戸時代、その蟻地獄にはまったのは男性のみでしたが、現代では、それが女性にも波及しています。

 

最後に、都道府県別300万円未満の低年収と500万円以上の高年収の男女の生涯未婚率を散布図にプロットしました。恐ろしいほどきれいに分かれています。文字どおり、「稼ぐ女と稼げない男」が結婚できていない現状が可視化されています。そして、高年収女性の未婚率が東京に集中しているのは前述のとおりですが、低年収男性の東京も負けずに高い位置を占めています。

東京圏への過度な人口流入と集中は、それ自体でも問題視されていますが、東京に流入する人口のほとんどが若年層であることを考えると、今後も進む東京一極集中化は、さらなる未婚率の上昇を招くおそれもあります。少なくとも、こと未婚の低年収男性と高年収女性の双方にとって、東京は「結婚できない蟻(アリ)地獄」のようなものと化しているのかもしれません。