タチバナ@774Netz

-進学就職情報メディア-

学歴や資格が無意味の時代になってきた

 米国のロースクール法科大学院)はかつて快適な暮らしへの確実な切符と考えられていた。しかし、長年にわたる授業料の値上げにより、借金まみれの生活への早道と化している。

 マイアミ大学ロースクールの最近の卒業生で連邦政府のローンを利用した人の債務中央値は16万3000ドル(約1800万円)で、その半数は卒業から2年後の年収が5万9000ドル以下にとどまっている。米誌USニュース&ワールドリポートがランク付けした上位100校のロースクールの中で、同校は債務と所得の開きが最も大きかった。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が連邦政府のデータを分析した結果、明らかになった。

 WSJが2015年と16年に卒業した学生を対象に連邦政府の最新の所得データを分析した結果によると、他の多くの定評あるロースクールの学生が10万ドル以上の学資ローンを抱え、卒業後も弁護士として高給職に就けずにいることが常態化している。

 マイアミ大ロースクールの学生が経済的支援を求めた際、学校関係者からしばしば勧められたのは、さらにローンを組むことだったと一部卒業生はWSJに語った。

 「職務経験も人生経験もないまま、この25万ドルのローン契約にサインをした」。2016年にマイアミ大ロースクールを卒業し、公選弁護人として約4万5000ドルの年収でキャリアをスタートさせたディラン・ボイグリスさんはこう話す。「卒業後にもっと稼げると思っていた」

 


マイアミ大学ロースクールを卒業したディラン・ボイグリスさん(写真)は現在、金利を含めて約30万ドルの学資ローン債務を負っている
PHOTO: SCOTT MCINTYRE FOR THE WALL STREET JOURNAL
 

 同大学のアンソニー・アルフィエリ教授(法学)は、ロースクールは学生に「このような残酷な楽観主義を醸成」し、10万ドル以上の給与が得られると思わせているが、実際のところ、そのような高給職は概して上位のロースクールの学生に確保されている。

 「ロースクールは、希望を持たせるために、呪術的思考を促している」とアフィエリ氏は話す。

 マイアミ大学の広報担当者は文書で「学生の債務削減は、ロースクールを含め、本校の各スクールやカレッジで最も重視していることだ」と述べた。特定の学生の事例についてはコメントを控えた。

 連邦政府のデータは、非一流校で取得した法律学位の価値が低下していることを示している。給与の上昇ペースは過去20年、インフレ率を下回っている一方で、学費は高騰している。3年間の法務博士課程は現在、生活費を含め、私立のロースクールで25万ドル以上かかることもある。

 業界団体の全米法職斡旋協会(NALP)によると、2019年にロースクールを卒業した人の翌年の年収中央値は7万2500ドルだった。これは、10年前の卒業生とほぼ同じだ。

 米名門私立大学では近年、映画や演劇などの分野の大学院生が、限られた収入しか見込めないにもかかわらず、10万ドル以上の債務を負わされている実体をWSJは報じた。こうしたデータは、大学院生の債務が新たな学資ローン債務危機の問題点として浮上していることを示唆している。ロースクールのデータは、この問題がより高給とみなされている職業にまで及んでいる証拠だ。

 約200の法務博士課程を対象にした米教育省のデータによると、全米のロースクールのうち、学生の卒業から2年後の年収が債務を上回っているのはハーバード大学スタンフォード大学ペンシルベニア大学をはじめ、わずか12校にすぎない。

 ジョージ・ワシントン大学やエモリー大学などUSニュース誌のランキングで上位30校に入る名門ロースクールの一部でさえも、学生の債務が卒業直後の年収をはるかに上回っている。ランキングは低いものの競争力のあるアメリカン大学では、卒業生の債務中央値は17万5000ドルと卒業から2年後の年収中央値の3倍近くに上る。

 


マイアミ大学(写真)は米国で最も裕福な65校のうちの1校
PHOTO: SCOTT MCINTYRE FOR THE WALL STREET JOURNAL
 

 ジョージ・ワシントン大学の学部長は、同大の卒業生の多くが、民間企業よりも給与が低い政府職や公益事業職に就いていると述べた。アメリカン大学とエモリー大学はコメントを控えた。

 フロリダ州コーラルゲーブルズにあるマイアミ大学は、米国で最も裕福な私立大学65校のうちの1校で、寄付金額は約10億ドルに上る。非営利機関のため、連邦税は免除されている。

 同大のロースクールは、USニュース誌のランキングで常に上位100校に入っており、2016年には60位にランクインした。同校のウェブサイトでは、教授陣の質の高さと教員1人当たりの学生数の少なさをうたっている。

 同ロースクールの学生の多くがインタビューで、評判の良い私立校に通えば雇用市場で有利だと考えていたと答えた。

 2019年に卒業したローラ・コーデルさん(30)は、特にフロリダ州内では名声があることから、マイアミ大を選んだと述べた。「マイアミの裁判所に行くと、判事がマイアミ大を卒業していたり、同大で教えていたりして、同大と何らかのつながりがある」

 「ロースクールを探していたときは、自分のキャリアにとって何が良いかを検討し、授業料のことはあまり考えていなかった」とコーデルさんは話す。多額の奨学金を提示してくれた別のロースクールは断ったという。「借りる金額の大きさを理解していなかった」

 コーデルさんは、マイアミ大の学費として33万4000ドルの連邦ローンを負っている。保険に特化した会社に勤務する現在の収入は、基本給が8万ドルで賞与が約1万2000ドル。所得に応じて毎月の返済額を設定する所得連動型のプランを組んでいるが、債務の額が多いため、最低返済額しか支払う余裕がないという。

 米法曹協会のデータによると、マイアミ大ロースクールの来年度の諸費用を含めた授業料は5万7000ドルと過去10年で43%も上がっている。これは、インフレ率の2倍以上だ。

ニュースレター購読
デイリー・ニュースレター
その日の注目記事をまとめてお届けします。(配信日:月曜日から金曜日)
 
購読
 ロースクールが値上げできるのは、学生が連邦政府の大学院生向けローンプログラム「グラッド・プラス」を利用できることを知っているためだ。グラッド・プラスは、学費と生活費を借りることができ、上限は定められていない。連邦政府の学資ローンの中で最も急成長しているプログラムだ。卒業生のローンが返済されなければ、それは納税者が負担することになる。

 NALPのデータによると、弁護士の初任給は概して二つのグループに分類される。公共サービスや小規模な法律事務所の弁護士の場合は4万5000~7万5000ドルで、大手事務所の場合は19万ドル前後だ。

 大手事務所の経験豊富なアソシエート弁護士は25万ドル以上と、公共部門や小規模な事務所の弁護士はよりもはるかに高い収入を得ることができる。しかし、民間非営利団体NPOロースクール・トランスペアレンシーが米法曹協会のデータを分析した結果によると、高報酬の法律事務所の初級職は半分以上が、ランキング上位20校の卒業生に与えられていた。

 マイアミ大学のウィリアム・ブラットン上級講師は「授業に出席し、卒業すれば、高給職に就けることが保証されたロースクールは、ほんの一握りしかない」と述べた。